前回は、デオキシリボヌクレオチドがいくつも結合してDNAができていることを解説しました。
では、そんなDNAは生体内ではどのように存在しているのでしょうか?
今回は、DNAの立体構造である二重らせん構造などについて解説していきます。
DNAは、4種類のデオキシリボヌクレオチドが結合してできたものでした。
DNAの配列を化学式で表記するのは面倒なため、模式図を使って示されることが多いのですが、上の図のように教科書によって表記の仕方は様々です。
論文などでは、単に塩基の頭文字であるアルファベットを並べるだけの表記もよく見かけます。
「デオキシリボース」と「リン酸」がつながることで骨格をつくり、そこに「アデニン(A)、グアニン(G)、チミン(T)、シトシン(C)の4種類の塩基」が結合した形を理解しておけば、模式図を理解すること自体に困ることはあまりないと思いますが、ある程度慣れるのに時間はかかるかもしれません。
ところで、生体内のDNAがどのように存在しているのかというと、上図のような二本一組のペアとなって存在しています。
外側にデオキシリボースとリン酸の骨格が存在し、それに向かい合った塩基が包まれているような状態ですね。
DNAがこのような状態になるのはこの形が最も安定的だからで、いくつかの要因がこの安定性に関与しています。
塩基間の水素結合
2本のDNAが一組になった二本鎖DNAでは、内側に位置する塩基も2個で一組のペアになっています。
よく確認してみると、塩基のペアはA-T (アデニン-チミン)・G-C (グアニン-チミン)の2種類しかなく、ペアとなった塩基の間には水素結合が形成されます。
水素結合は、「電気陰性度が高い窒素や酸素などの原子」と「そのような原子と隣り合う水素原子」との間に形成される静電気的な分子間引力です。
上の図で示すように、アデニンとチミンの間には2つの水素結合が、グアニンとシトシンの間には3つの水素結合が形成可能です。
複数の水素結合を形成できることがDNAの安定性に寄与しており、原則としてA-T、G-C以外の塩基ペアは存在しません。
仮にこの2種類以外の塩基ペアができたときはDNA上のエラーとしてDNA修復タンパク質に検出され、修復を受けることになります。
ちなみに、上の図では左右でリボースが反対方向を向いていますが、これはデオキシリボースとリン酸がつながってできる鎖が二本鎖で逆向きになっていることを示しています。
◆ 疎水性相互作用
また、生体内のDNAにおいては、ホスホジエステル結合部分の水酸基が水素イオンを放出することで負電荷を帯びています。
一方、塩基側には水素結合の形成に必要な多少の電荷の偏りはあるものの、それほど強い電荷を帯びているわけではありません。
このことからDNA鎖は親水性領域と疎水性領域に分けられ、生体内、つまり細胞内の水で満たされたような環境では親水性であるリン酸-デオキシリボースの骨格が外側に位置し、疎水性領域である塩基が内側へと押しやられます。
結果として、向かい合う塩基が水素結合で引きあうだけでなく、同じ鎖の隣り合う塩基の間にも疎水性相互作用が生じていると考えられます。
DNA二重らせん構造
これまでDNAの模式図は平面的に描いてきたのですが、立体的に見てみるとDNAはぐるっとねじれた二重らせん構造を取っていることが分かります。
(上図の右の二重らせんのイラストは以下より引用しています。J. D. WATSON & F. H. C. CRICK. "Molecular Structure of Nucleic Acids: A Structure for Deoxyribose Nucleic Acid". Nature. 1953;171:737–738.)
もちろん、外側にデオキシリボースとリン酸のつながった鎖があり、内側に塩基があるということには変わりありません。
デオキシリボヌクレオチド内での各原子の結合の方向性、塩基間の水素結合の方向性、負電荷を帯びたリン酸基同士の反発など、様々な要因が絡み合う中でこのような立体構造が最も安定な形態なのだろうと推察されています。
DNAが二本鎖であることのメリット
ここで、DNAが二本鎖であることのメリットについて考えていきたいのですが、ここで少し用語の紹介をします。
DNA二本鎖の内部では塩基同士でペアが形成されていることを紹介しましたが、片方の鎖の塩基配列が決まれば反対側の塩基配列も決まることから「DNAは相補的な二本鎖を形成している」と言われます。
また、水素結合を形成可能な2個1組の塩基ペアは塩基対と呼ばれ、DNAではA-T、G-Cの2種類の塩基対が存在するということになります。
では、DNAが二本鎖であることのメリットを見ていきましょう。
DNAの修復
DNAが二本鎖であることのメリットとしては、DNA修復がしやすくなることが挙げられます。
DNAは常日頃から意図しない変形を受けており、その都度修復を受けることが必須。
しかし、DNAが一本鎖だと、変形した塩基部分を取り除いた後に間違った塩基を入れてしまう可能性が出てくるのです。
ではDNAが二本鎖の場合ならどうかというと、変形した塩基の向かい側に塩基対を組んでいた塩基が残っています。
もし反対側の鎖にチミンが残っているのなら、塩基対を形成可能なアデニンをはめ込めば元通りという寸法になりますね。
従って、DNAが一本鎖であるよりも二本鎖である方がDNAの修復が正しく行いやすくなります。
DNAが二本鎖だと二重らせんの内側に塩基がくるので、物理的にも塩基が変形を受けにくくなるのもメリットの一つでしょう。
DNAの複製
また、自分と同じDNAを新たに作るとき (=DNAを複製するとき)にも、二本鎖であることが役に立ちます。
二本鎖がいったん離れ、ペアとなる塩基をつなげていくことで新しい鎖を作り出されていくのですが、この方式なら正しい塩基を追加できているかを確認することができますね。
もし間違った塩基をつなげると A-T、G-C 以外の塩基対ができてしまい、これはDNAの構造の歪みとして検出され、一旦排除された後に正しい塩基がつながれます。
理解するのに時間がかかるところですが、DNAの複製に関しては後にまた解説を入れる予定なので、そちらで再度見直した方が分かりやすいかと思います。
まとめ
今回の話をまとめますと、特に重要な部分はこんなかんじになりますでしょうか。
DNAは二本鎖を形成しており、 A-T、G-C の2種類の塩基対だけが存在していることを理解しておくと、かなり多くの遺伝学の現象が理解しやすくなります。
DNAの修復や複製に関してはまた今後触れていくつもりなので、今は分からなくてもその時に再度確認していけばオーケーでしょう。
では、今回はこのあたりで解説終了と致します。
お読みいただきありがとうございました。