DNAと聞くと複雑なモノを思い浮かべるかもしれませんが、DNAは生物学、特に遺伝学のド中心にあるものということもあって、構造は意外とシンプルです。
DNAの構造を理解するだけで、遺伝学分野の多くの現象を理解できるようになるので、その構造をご紹介していきたいと思います。
このページでは、DNAを構成するパーツにあたるデオキシリボヌクレオチドについて解説していきます。
DNAを構成するデオキシリボヌクレオチド
「DNA」の正式な名称は「deoxyribonucleic acid」で、日本語に訳すと「デオキシリボ核酸」となります。
ひとつ前の解説ページでDNAが4種類のパーツからできていることを説明しましたが、そのパーツはデオキシリボヌクレオチドと呼ばれます。
つまり、DNAは4種類のデオキシリボヌクレオチドが連結してできたものということができるわけですね。
DNAの正式名称である「deoxyribonucleic acid」「デオキシリボ核酸」は、あまり馴染みのない響きの言葉で、DNAという言葉をわざわざ正式な名称にして呼ぶことはほとんどない‥かもしれません。
しかし、受験問題などでは問われることもありますし、生物学を勉強しているならしっかり言えるようにはしておきたいところです。
デオキシリボヌクレオチドについて
デオキシリボヌクレオチドを細かく見てみると
・デオキシリボース
・リン酸
・塩基
が結合して形成されていることが分かります。
デオキシリボースに結合できる塩基は4種類あり、どの塩基が入るかによってデオキシリボヌクレオチドの種類が変化。
つまり、塩基が4種類あるのでデオキシリボヌクレオチドは4種類=DNAのパーツは4種類となるわけですね。
六角形で示していた4種類のDNAのパーツ=4種類のデオキシリボヌクレオチドは、上の図のようにそれぞれ対応します。
この図なら、どの塩基が入るかによってデオキシリボヌクレオチドの種類が変わるというのが、視覚的にも分かりやすいのではないでしょうか。
ところで、DNAのパーツとなるデオキシリボヌクレオチドがたくさんつながってDNAとなるわけですが、デオキシリボヌクレオチド同士はどうやって結合しているのでしょうか。
その答えは、どのデオキシリボヌクレオチドにも共通して含まれているデオキシリボースとリン酸の間で結合しているということになります。
赤線がデオキシリボヌクレオチド間の結合を示しており、このように結合を繰り返せばデオキシリボヌクレオチドは何個でも結合が可能で、どこまでもDNAが伸長できるということになりますね。
実際のところ、ヒトのDNAでは億単位でデオキシリボヌクレオチドが結合していることが分かっています。
デオキシリボース
次に、デオキシリボースの構造を見ていきます。
デオキシリボースは化学式ではC₅H₁₀O₄と表記され、具体的には上の図のような構造をとります。
1個の酸素(O)と4個の炭素(C)で五員環を作り、その上下に水素原子(H)や原子団が結合した形ですね。
慣例上、炭素原子と炭素原子に結合している水素原子は省略してもオーケーなのですが、五員環の炭素に直接結合している水素原子は残しておいた方が立体的に見やすいので、上図の右側にはあえて省略せず残している水素原子もあります。
ちなみに、デオキシリボースの構造をできるだけ省略して描いてみるとこのようになり、3つの水酸基があることが一目で分かるでしょう。
また、デオキシリボースに含まれる5つの炭素には番号が付いていて、右回りに1'~5'の数字が割り当てられています。
この数字を使うと、3つの水酸基は1'位、3'位、5'位の炭素に付いている、というような説明をすることができるようになります。
炭素の番号の数字に「'」が付く理由は、後ほど説明します。
「'」の読み方は日本語で 「ダッシュ」と読めるのですが、国際標準では「プライム、prime」と読みます。
大学レベル以上になると、「プライム、prime」と呼ぶ方が一般的なので、早い内からこちらの呼び方をしておいた方が無難でしょう。
塩基
では、次にデオキシリボヌクレオチドに含まれる塩基を見ていきます。
4種類の塩基は上の図のような構造をしていて、五員環と六員環が合わさった構造を持つものが2種類、六員環の環状構造を持つものが2種類あります。
五員環と六員環が合わさった上の図のような化学構造をプリン骨格といい、この骨格を持っているのがアデニン、グアニンの2つの塩基です。
英語での頭文字を取って、アデニン (Adenine) はA、グアニン (Guanine) はGと表記されることも多いです。
覚えるのにはちょっと複雑な構造で、これらの構造を丸々描くような問題はさすがに受験でも出題されないでしょう。
ただ、どちらがアデニンでどちらがグアニンなのかを構造を見て答えられたらグッドだと思います。
また、上の図のような窒素原子を含む六員環構造をピリミジン骨格といい、チミン、シトシンの2つの塩基がこの骨格を持っています。
省略形のアルファベットでは、チミン (Thymine) はT、シトシン (Cytosine) はCと表記されます。
炭素原子とそれに付随する水素原子に関しては省略表記をしているので、チミンの左上にはメチル基(-CH₃)が結合していることになります。
覚えるのにはちょっと複雑な構造で、これらの構造を丸々描くような問題はさすがに受験でも出題されないでしょう。
こちらも、どちらがでチミンどちらがシトシンなのかは分かるようにしておきたいですね。
デオキシリボヌクレオチドの構造
ここで、実際のデオキシリボヌクレオチドの化学構造を見ていきましょう。
リン酸 (H₃PO₄)、デオキシリボース、塩基の一つであるアデニンを合成すると上の図のようになります。
水素原子と水酸基がH₂Oとして引き抜かれる形で結合が形成され、塩基であるアデニンはデオキシリボースの1'位の炭素に直接結合。
リン酸はデオキシリボースの5'位の水酸基に結合しています。
なお、塩基側の環状構造に含まれている炭素と窒素にも、上図で示すような番号が付いています。
それぞれの塩基において、赤の点線で囲んだ部分の水素原子が抜け、残った窒素原子がデオキシリボースの1'位炭素と結合。
塩基の炭素や窒素を表す番号には「'」をつけないことで、「'」付きの番号で示すデオキシリボースの炭素とは表記が明確に区別することができます。
例えば、5位の炭素と記すとそれは塩基に含まれる炭素であり、5'位の炭素と記すとそれはデオキシリボースに含まれる炭素を示すことになるわけですね。
この表記に従うと、ピリミジン塩基であるチミンとシトシンは1位の窒素がデオキシリボースに結合し、プリン塩基であるアデニンとグアニンは9位の窒素がデオキシリボースに結合することになります。
なお、炭素や窒素に割り振られた番号の付け方にはちゃんと規則があるのですが、それに関してはかなりの説明がいるのでここでは割愛します。
また、DNAの構造を専門に研究などしていない限りは、とくに塩基側の炭素・窒素の番号の付け方を覚えておく必要はないでしょう。
最後に、デオキシリボヌクレオチド同士の結合の仕方を確認します。
アデニンを含むデオキシリボヌクレオチドの結合をとってみると、前述したように、片方のデオキシリボースと片方のリン酸基が結合することでデオキシリボヌクレオチドが結合します。
デオキシリボースの3'位炭素に結合した水酸基が別のデオキシリボヌクレオチドのリン酸基と反応し、脱水を伴って新たな結合を形成。
赤い破線の四角形で囲んだデオキシリボースを結び付けている部分は、その形からホスホジエステル結合と呼ばれます。
アデニン、グアニン、チミン、シトシンを順番につなげると、上の図のようになります。(図が縦長になってしまうので、ホスホジエステル結合の角度を少し変えています)
塩基の部分に何が入っていても、デオキシリボースとリン酸基の間でホスホジエステル結合の形成は可能。
このように、デオキシリボヌクレオチド同士がホスホジエステル結合でいくつも連結することで、DNAが完成します。
まとめ
DNAを構成するのは4種類のデオキシリボヌクレオチドで、「デオキシリボース」「リン酸」「4種類の塩基の内の1つ」が結合してできています。
「塩基」はデオキシリボヌクレオチドの種類を決定しており、今後の章で紹介するDNAの役割を果たすのに重要な部分になります。
それに対し、「デオキシボース」と「リン酸」はホスホジエステル結合で連結を繰り返すことで、長いDNAの骨格として機能。
長くなりましたが、今回はこのあたりを重点的に抑えていただければいいかと思います。
4種類の塩基の名前はこれからもよく出てくるので、そのうち自然に覚えられるでしょう。
次回は、DNAの構造part2として、DNAの立体構造についてご紹介する予定です。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
また次の機会にお会いしましょう。